[新聞] 過酷な運命に向き合う、家族の愛と信頼──役所広司さん、堀北真希さん
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過酷な運命に向き合う、家族の愛と信頼──役所広司さん、堀北真希さん
2014年10月07日
第146回直木賞を受賞した、ベストセラー時代小説『蜩ノ記(ひぐらしのき)』(
葉室麟)が映画化されました。巨匠・黒澤明監督の“愛(まな)弟子”と呼ばれる小泉堯
史監督が、作品中で描かれる「師弟関係」に自身の思いを重ねて撮ったという話題作で
す。切腹という運命と向き合い崇高に生きる戸田秋谷(しゅうこく)役の役所広司さん、
秋谷を支える凛(りん)とした娘・薫を演じた女優・堀北真希さんに撮影秘話や作品への
思いを、小町さんが聞きました。
妻の手に触れる──何だかいいですよね
出演の依頼があったときのお気持ちを教えてください。
A 「やっと来たか!」ですね。小泉監督の映画に参加したくて、声がかかるのをずっ
と待っていたんです。今回、小泉監督が原作の「蜩ノ記」を映画化したいと思い、その
とき、ぼくが主人公の秋谷の年齢に達していた。もう少し若くても、もっと年をとって
いても、この作品と巡り合えなかった。これは、縁に結ばれていたんだと思っています
。
Q 小泉監督の映画は準備に長い時間をかけると伺いました。事前に小笠原流を習った
り、習字の稽古をしたりしたそうですが、役所さんが秋谷を演じるためにとくに力を入
れて準備したことはなんですか?
A 台本を読み込むことですね。秋谷を知ることが大切だからです。秋谷がどんな人物
で何をしてきたか、たとえセリフになくても知っていれば、どんなシーンでも演じられ
るし、説得力もある。小笠原流の稽古をしても、短期間で習得できるわけないんです。
でも稽古を通じて、こういう食事をしてきた人だとか、こういうたたずまいの人だと、
知ることができます。
Q 戸田秋谷は、役所さんから見てどんな人物ですか?
A 本当に立派な人ですよね。でも、それだけじゃない。藩主の側室だった松吟尼とい
う女性に対する思いというのが、とても人間的でいいんです。松吟尼の存在がなかった
ら、ただ清廉潔白な男ですが、彼女との関わりがあるから深みが生まれる。
Q 原作でも映画でも秋谷の心の底は語られませんでした。秋谷の松吟尼への思いは“
愛”だったのでしょうか?
A 何らかの気持ちはあったと思います。妻の織江を大切にしていますが、松吟尼には
また違う感情がある。彼の人生の中で“ひっかかっている”存在なんでしょう。ふつう
の男だったら、「いやあ、あの晩は何にもなかったんだよ」って妻に言い訳しますよ。
秋谷はいっさい何も語らない。でも、妻は100%信じている。秋谷は不義なんてする
人じゃない。夫のことがよくわかっているんです。
Q 妻の手をそっと握るシーンを見て、夫婦の絆に胸が熱くなりました。夫婦愛もこの
映画のテーマの一つだったと思いますが、このシーンを演じられて、改めて夫婦につい
て思うことはありましたか?
A この映画で秋谷が向かっていくところは、突き詰めればこのシーンに集約されてい
ると思います。荒れてざらついた妻の手に触れる──何だかいいですよね。結局、夫婦
は人間として信頼し合えるかどうかなんでしょうね。
Q 秋谷と織江の夫婦はお互いを信頼して、言葉に出さなくても心が通じ合っているよ
うに思えました。現代の妻の不満の多くは「夫のことがわからない」「ちゃんと言葉に
してくれない」というものですが、役所さんは奥様に言葉にして気持ちを伝えています
か?
A ええ!? いやっ、それはどうでしょう(笑)。まあ、よく二人でしゃべりますか
らね。ケンカもします。それも夫婦のコミュニケーションですよね。夫婦だから「何も
言わなくてもわかるだろう」というのは、本音を言うと難しい。ぶつかってもいいから
、話すことじゃないですか。言葉を交わすのがいちばん分かり合える。
師と呼べる人に出会って人生が変わりました
秋谷の娘・薫を演じた堀北真希さんの印象を教えていただけますか?
A 堀北さん、よかったですよね。この物語は200年前の話です。堀北さんの演じる
薫は、200年前にこんな娘がいたかもしれないと思わせる。現代の女性ですが、それ
が表に出てこない。恥じらいというかたたずまいというか、実に自然に武家の娘になっ
ていました。
Q 秋谷の監視役である庄三郎は、秋谷との出会いによって多くを学び、人生が変わっ
ていきます。役所さんにも人生が変わるような出会いがありましたか?
A 俳優の仲代達矢さんと出会ったことです。仲代さんの主宰する「無名塾」に拾われ
なかったら、ぼくは役者はやってなかったですね。仲代さんはぼくにとって師とも呼べ
る大切な存在です。
Q まさに、秋谷と庄三郎の師弟関係のようですね。完成した映画をご覧になっていか
がでしたか?
A この作品に参加できてよかったと思いました。ぼくは普段、観客として見ることが
できないんですけど、今回はすんなり作品の世界に入れましたね。泣けるでしょう?
この映画は。
はい。号泣しました。とくにラストシーンの秋谷の後ろ姿に泣けました。“死”に向か
っているのに、振り返った顔には清々(すがすが)しい表情があった。このときの秋谷の
心情はどのようなものだったのでしょう?
A すべてを吹っ切って、思い残すことはない。そういう気持ちだと思います。最後に
秋谷は振り返りますが、台本には書かれてなかったんです。ぼくも振り返るつもりはな
かった。監督が本番間際に振り返るかどうか、ずっと悩んでいらした。それで、さあ本
番というときに「振り返る」ことにしたんです。映画にはありませんが、撮影では子ど
もたちが秋谷を見送っているんです。この10年、十分に子どもたちと過ごして、家族
を託せる庄三郎もいる。子どもたちの顔を見て、秋谷は満足して最後の務めに出かけま
す。この映画の魅力は、家族の愛、師弟の愛、夫婦の愛、さまざまな愛が描かれている
ところです。200年前は携帯電話もテレビも便利なものは何もなかった。でも、夫婦
や家族や友人の愛や絆に結ばれていた。いまの若い人たちに、この頃の日本人が何を考
え、どう生きてきたか、それを知ってもらいたいですね。
「撮影に入るまでの時間も濃かったです」──堀北真希さん
出演が決まったとき、どんなお気持ちでしたか?
A(堀北真希さん) 小泉堯史監督やスタッフ、共演した皆さんも含め、ベテランの方
々とお仕事をすることにすごく魅力を感じて、とにかく「がんばろう!」と思いました
。
Q 10年後の切腹を命じられた父を見守る娘という難しい役ですが、薫を演じるため
に、どのようにアプローチしたのですか?
A 脚本を読んで、薫のイメージは何となくつかめたんですけど、武士の娘としての礼
儀作法や立ち居振る舞いなど、基本的なことが分かっていなくて。そのまま演じたら、
たぶん現代風な娘になってしまう……。監督からは、現代と比べると女性が自分の意見
を言いにくい時代だったと教えていただきました。それで、武士の娘を理解するところ
から始めました。監督に渡された武士の生活や武士の娘の一生を描いた本を読んだり、
小笠原流の礼法を習いに行ったりしました。
Q 武家の娘としての所作はとても自然でした。撮影中にとくに苦労されたシーンは?
A 食事のシーンでしょうか。一汁三菜をお膳でいただくのですが、食べる順番も決ま
っているんです。何か作業をしながらセリフを言うときに、所作や作法をきちんとする
のは大変でした。それから、村祭りで舞を披露するシーンがあって、撮影に入る数か月
前から稽古に通ったんですが、振りがなかなか覚えられなくて。4人で踊るのですが、
ほかの方は舞踊家なので、動きがぴったり合っていて、私が合わないと目立ってしまう
。曲のこのあたりで、こう動く……というタイミングをつかむのが大変でした。
Q お話を聞いていて、撮影前から時間をかけて作品を作り上げていくイメージを受け
ました。
A 小泉監督は撮影に入る前に丁寧に準備をする方で、例えば、本番と同じように衣装
やカツラを着け、きちんとメイクして、写真を撮ります。扮装(ふんそう)をチェック
して、何度も検討するんです。監督と話し合いもたくさんしましたし、撮影に入るまで
の時間も濃かったです。
Q 撮影が始まってからはいかがでしたか?
A これだけこだわって準備するのだから、撮影も時間がかかるのかな……と思ってい
ました。でも、始まったら意外にさらっとしていたんです。準備して積み上げてきたも
のをカメラの前で表現していく感じで、本番はほとんど1回でOK。何台ものカメラで
一気に撮っていくので、何度も同じお芝居を繰り返す必要がないんです。気持ちが途切
れずに演じられて、やりやすかったです。でも、間違えたら最初から撮り直しなので、
緊張もしました。
武家娘は奥ゆかしくて恥ずかしがり屋
Q 撮影中、監督に何か特別なアドバイスを受けましたか?
A 撮影前の話し合いのときから、現代の女性とは違うから、奥ゆかしく、おしとやか
に気恥ずかしさを意識して演じてほしいと言われていました。自分では十分に演じてい
るつもりなんですが、監督に「もっと気恥ずかしそうに!もっと!もっと!」って言わ
れて(笑)。
Q 庄三郎に恋心を抱いて、薫の「恥ずかしい」気持ちもエスカレートしていったので
しょうか?
A いえ、恋心とかなくても、すっごく恥ずかしがるんですよ(笑)。男性と接する機
会がないから、庄三郎と初めて会ったときから、すでに恥ずかしいんです。薫が特別に
「恥ずかしがり」じゃなくて、当時の女性はみんなそうだと教えていただきました。自
分の意見を言ったり主張したりしない。心の内を明かしたりしないので、恋するプロセ
スも今とぜんぜん違うと思います。
Q 普段は控えめな薫が、父の不義密通の相手とされている松吟尼に自ら望んで会いに
行くシーンが印象的でした。松吟尼に対峙(たいじ)する薫の凛とした強さを感じました
。
A 薫は父を信じていましたが、松吟尼に会うことで納得したかったんだと思います。
自分の思いを伝え、松吟尼の気持ちを直接聞いておきたい。口を出すべきではないとわ
かっていても、納得いかないところはきちんとしたいという薫の心情は共感できました
。私にとっても大切なシーンでした。
Q 役所広司さん、原田美枝子さん、寺島しのぶさんなどベテラン俳優と共演されて、
吸収されたことはありますか?
A やはり、時代劇は立ち居振る舞い一つにしても基礎ができてないとダメなんだなと
思いました。歩いたり、立ったり、座ったりという日常的な動作にしても、やろうとす
るとうまくいかない。たたずまいというか、何かが違うんです。役所さんも原田さんも
、そういったものが身についていて、自然体で演じていらっしゃる。撮影中の役所さん
は、そこにいるだけで“厳格なお父さん”という感じでした。
Q デビューして12年、堀北さんにとって演じることの魅力とは何ですか?
A 今回のように武家の娘を演じれば、現代とまったく違う時代を体験できることでし
ょうか。演じるというのは、その時代やその人の生き方を体験しているようなものです
。いろんな人になって、いろんな時代を生きることができる。そこが魅力だと思います
。
◇◇◇
「蜩ノ記(ひぐらしのき)」
ある事件の罪で10年後の切腹と家譜の編さんを命じられた戸田秋谷。その監視役で派
遣された藩士・檀野庄三郎は、秋谷の清廉な人柄に感銘を受け、師弟関係を結ぶ。切腹
の日まで、あと3年。秋谷の無実を信じ、彼を救うために真相を探り始める。やがて、
秋谷の娘・薫に淡い恋心を抱くようになる……。
監督:小泉堯史
原作:葉室麟
キャスト:役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子、青木崇高/ほか
配給:東宝
(c)2014「蜩ノ記」製作委員会
公開:2014年10月4日
2014年10月07日 Copyright c The Yomiuri Shimbun
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